こんにちは。Victoriaです。
「ある犬の物語」第4章をお届けします。
第4章
犬は、決心しました。
――もう、Tさんを頼ったりするのは、やめよう。
犬は、路上で芸を始めました。
暫く続けているうちに、足を留めて目を見張る人も現れました。
そうです。犬は、以前いた施設や、Tさんの前では、大した芸は見せませんでしたが、がんらい賢く、芸達者だったのです。
犬は、路上で、昔憶えた芸を、いくつもいくつも、懸命に披露しました。
「おう、見れば老犬だが、なかなか凄い芸をするじゃないか。」
足を留めた人間の一人が呟きました。身なりは良くないけど、眼光の鋭い小父さんです。
小父さんは、犬に向かって「あれはできるか」「これをやってみろ」と、いろいろ注文しました。
犬は、小父さんに言われるがままに芸を見せました。うまく出来ないものもありましたが、一個だけ、この犬にしかできない特殊な芸があったようです。小父さんは満足して頷きました。
「うん。それは良いな。凄くいい。」
この小父さんが、犬に犬小屋を与えてくれるのか、施設に連れて行ってくれるのか、それは、まだ分かりません。(おそらく後者でしょう。)
ひょっとすると、小父さんは、サーカスの支配人で、この小父さんに連れて行かれた暁には、毎日のように新しい芸を仕込まれて、鞭打たれる日々が待っているのかも知れません。
犬は、「それでも、いいかも知れない」と思い始めました。
少なくとも、「いつかそのうちTさんが自分を連れて帰って飼ってくれるだろう」と、夢のようなことを思い描いて、Tさんのくれるドッグフードを食べていた日々よりは、希望が持てそうです。
口約束すらもらえなかった幻の「Tさん家の犬小屋」よりは、自分の芸で稼ぐドッグフードのほうが、たぶん確実です。これまでだって、自分の芸で、多少のエサは稼いできたのですから。
犬には、これまでよりも、多少はマシな未来が待っているのに違いありません。…
(完)
ある犬の物語、
バックナンバーはこちらです。
第1章
第2章
第3章
「ある犬の物語」は、
Victoriaの日記にお寄せいただいたメッセージを、
そのまま掲載してお送りしました。
ステキな物語をありがとうございます。
Victoriaでした。
「ある犬の物語」第4章をお届けします。
第4章
犬は、決心しました。
――もう、Tさんを頼ったりするのは、やめよう。
犬は、路上で芸を始めました。
暫く続けているうちに、足を留めて目を見張る人も現れました。
そうです。犬は、以前いた施設や、Tさんの前では、大した芸は見せませんでしたが、がんらい賢く、芸達者だったのです。
犬は、路上で、昔憶えた芸を、いくつもいくつも、懸命に披露しました。
「おう、見れば老犬だが、なかなか凄い芸をするじゃないか。」
足を留めた人間の一人が呟きました。身なりは良くないけど、眼光の鋭い小父さんです。
小父さんは、犬に向かって「あれはできるか」「これをやってみろ」と、いろいろ注文しました。
犬は、小父さんに言われるがままに芸を見せました。うまく出来ないものもありましたが、一個だけ、この犬にしかできない特殊な芸があったようです。小父さんは満足して頷きました。
「うん。それは良いな。凄くいい。」
この小父さんが、犬に犬小屋を与えてくれるのか、施設に連れて行ってくれるのか、それは、まだ分かりません。(おそらく後者でしょう。)
ひょっとすると、小父さんは、サーカスの支配人で、この小父さんに連れて行かれた暁には、毎日のように新しい芸を仕込まれて、鞭打たれる日々が待っているのかも知れません。
犬は、「それでも、いいかも知れない」と思い始めました。
少なくとも、「いつかそのうちTさんが自分を連れて帰って飼ってくれるだろう」と、夢のようなことを思い描いて、Tさんのくれるドッグフードを食べていた日々よりは、希望が持てそうです。
口約束すらもらえなかった幻の「Tさん家の犬小屋」よりは、自分の芸で稼ぐドッグフードのほうが、たぶん確実です。これまでだって、自分の芸で、多少のエサは稼いできたのですから。
犬には、これまでよりも、多少はマシな未来が待っているのに違いありません。…
(完)
ある犬の物語、
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第1章
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ステキな物語をありがとうございます。
Victoriaでした。